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【特別レポート】ノーコード・ローコードの失敗パターンと成功導入のステップを徹底解説

セミナー「ノーコード・ローコードの業務アプリ作成ツールが活用されない現場の共通点とは?」

水無瀬 あずさ[著]

本記事は、先日開催されたセミナー「ノーコード・ローコードの業務アプリ作成ツールが活用されない現場の共通点とは?」における登壇内容を特別に書き起こしたものです。通常のブログ記事とは異なり、イベントの臨場感をそのままお伝えするため、外部ライターの方に執筆いただきました。いつもの文体とは異なる部分もございますが、ぜひお楽しみください。

 

2025年5月28日に開催されたセミナー「ノーコード・ローコードの業務アプリ作成ツールが活用されない現場の共通点とは?」では、リーデックスから小川が登壇し、DX推進におけるノーコード・ローコード導入の落とし穴について解説しました。

多くの企業が「誰でも簡単に使える」と謳われるツールに過度な期待を寄せる一方で、現場では教育不足や既存業務との両立困難、機能理解の甘さが原因でプロジェクトが頓挫しがちです。

この記事では、失敗事例から見えてきた共通課題を整理するとともに、スモールスタートで成功に導くポイント、さらにOSSとして提供されているプリザンターならではの特長と実際の導入事例をご紹介します。業務効率化を目指す皆さまのヒントとしてご活用ください。

ノーコード・ローコード導入で陥りがちな3つの落とし穴

ノーコード・ローコードツールは、DX推進やデジタル化の加速、迅速な変化への対応やコスト削減を実現する手段として注目を集めています。「プログラミング不要で誰でも短期間にアプリを作成できる」との期待から、「とりあえず試してみよう」という企業も増加。しかし現場では、思ったほど活用されずにプロジェクトが頓挫するケースが後を絶ちません。

その背景には、次の3つの落とし穴が潜んでいます。

人材教育不足による定着の失敗

1つ目は、人材教育不足による定着の失敗です。運用担当者へのトレーニングが講習会だけで終わると、せっかく自動化した業務にも旧来の手作業が残存してしまいます。

例えば承認フローの自動化ツールを導入しても、現場メンバーが操作方法を十分に理解できていなければ旧手順との並行運用となり、自動化の効果は半減します。ツールを全社に定着させるには、操作研修だけでなく、運用マニュアルやトラブル対応手順を盛り込んだ包括的なトレーニングプログラムが不可欠です。

内製化による担当者の負荷集中

2つ目の落とし穴として、内製化による担当者の負荷集中が挙げられます。「自社で内製化すればコストを抑えられる」と安易な考えで兼務担当者に過度な負荷をかけると、本来業務との両立が困難になり、開発が停滞してしまうのです。

日々のルーティンワークをこなしながらアプリ設計やテスト、保守まで担うのは現実的ではなく、品質低下やリリース延期、さらにはツール自体への不信感を招きます。小規模業務からスモールスタートで取り組み、内製と外注の役割分担を明確化することが、成功への近道です。

機能理解不足からの過度なカスタマイズ

3つ目は、機能理解不足からの過度なカスタマイズです。ツールの機能理解が甘いまま進めると、標準機能でまかなえるはずの要件までローコードによるカスタマイズで対応せざるを得なくなり、結果としてコストと手間が膨張します。

アップデートのたびに追加テストや修正作業が発生し、当初想定の数倍の工数になる例も少なくありません。導入前に「できること・できないこと」を明確化し、標準機能でまかなえる範囲を整理したうえで、カスタマイズを最小限にとどめることが重要です。

 

では、なぜノーコード・ローコードツールは「誰でも簡単に使える」という幻想が生まれるのでしょうか。それは、メディアや広告で成功事例の“おいしい部分”だけが取り上げられ、ツールUIの進化によって操作ハードルが下がった結果、裏に潜む本質的な課題が見えにくくなっているためです。

ノーコード・ローコードは万能ではありません。企業は過度な期待をかけるのではなく、導入前に上述の3つの落とし穴を理解し、スモールスタートで検証、内製と外注の役割分担を明確化することで、プロジェクトの成功率を高めることが大切です。

スモールスタートから全社展開へ──成功に導く導入ステップ

ノーコード・ローコードを効果的に活用するには、まず「何ができて、何ができないか」を正しく見極めることが欠かせません。

すべての業務に万能なツールは存在しないという前提に立ち、各ツールの基本機能や制約を自社の業務要件と照らし合わせて確認することが重要です。可能な限りノーコードの機能を活かし、ローコードによるカスタマイズは必要最小限にとどめる――このバランス感覚が、導入後の過剰なカスタマイズや予期せぬ工数の増加を防ぐポイントになります。

例えば、ノーコードで対応できる領域は自社メンバーが主体となって運用し、外部連携や高度な処理が求められる部分は、外注やIT部門に委ねるというような“棲み分け”が求められます。その判断を行うためにも、まず「標準機能でどこまで実現できるか」を明確にし、自社で習得すべきノウハウと、外部に委託すべき領域を見極める力が必要です。

では、実際にノーコード・ローコードを導入し、定着・展開させていくためには、どのような手順を踏むべきなのでしょうか。ここでは、大きく3つのステップに分けて整理します。

STEP1:ツールの基本機能を理解し、自分の手で実際に操作してみること

初めに重要なのは、ツールの基本機能を理解し、自分の手で実際に操作してみることです。プリザンターを含め、多くのツールには無料で試せる環境が整っており、自分のアカウントで簡単なアプリを作成してみることで、「こういうことができるのか」といった実感を得られます。

あわせて、ベンダーが提供するハンズオン研修に参加したり、書籍やブログを活用したりすることで、より体系的に機能を理解しやすくなります。この段階でしっかりと基礎を固めておくことが、後の展開フェーズでのつまずきを減らせる重要なポイントです。

STEP2:実際の業務に組み込む

STEP2では、実際の業務に組み込む「スモールスタート」に移行します。例えば経費精算や在庫管理など、比較的単純で小規模な業務を対象に、小さなチーム単位で導入を始めてみましょう。この段階では、担当者ひとりで完結するのではなく、複数人で共有・操作できる体制を整えることが重要です。

導入初期は集合研修などで得た知見をチーム全体に展開し、実際の運用を通じて得られた課題や改善点をマニュアルに反映させていきます。あわせて、メールや月数回の打ち合わせといった軽い形でベンダーにサポートを依頼し、最小限のコストで確実に業務を回す体制を整えましょう。

STEP3:適用範囲を広げる

そしてSTEP3では、ノーコード領域で得た知見やノウハウを活かしながら、徐々に適用範囲を広げていきます。簡単な設定で実現可能な部分は引き続き内製で対応し、夜間バッチ処理や外部システムとの連携といった、より複雑で専門的な要件が求められる場合は、外部パートナーやIT部門と協力して進めることが現実的です。

このフェーズにおいては、運用にかかるコストや技術的支援の必要性をあらかじめ見積もり、エンジニアサポートや保守・運用支援サービスを活用するための予算をしっかりと確保しておくことが、安定した運用とスケーラビリティの確保につながります。

 

このように、「小さく始めて成功体験を積み重ね、徐々に広げていく」というプロセスを丁寧に繰り返すことが、ノーコード・ローコード導入を単なる一時的な試みに終わらせず、組織全体のDX基盤として根付かせていく鍵となります。

成功するノーコード・ローコードの条件と実際の導入成功事例

ここまで、ノーコード・ローコードツールを活用するための導入ステップについて解説してきました。では実際に、「成功するツール」とはどのような条件を満たしているのでしょうか。ここでは、プリザンターを例にとりながら、現場で選ばれるツールの共通点と、導入企業での活用事例をご紹介します。

第一の条件

成功するツールの第一の条件は、「小さく始めて、大きく育てられること」です。特にExcelで運用している業務を起点に、GUIベースで段階的にアプリを作成できる柔軟さが求められます。プリザンターは、直感的なGUI操作で業務アプリを作成でき、運用中でも画面構成や入力項目を停止することなく追加・修正が可能です。

第二の条件

二つ目の条件は、「標準機能が豊富で、拡張性も高いこと」。通知やワークフロー、権限管理といった基本的な業務機能が充実しているか、JavaScriptやCSSによる画面のカスタマイズ、業務ロジックの追加などが可能かどうかも重要なポイントです。プリザンターはこれらをすべて満たしており、実務レベルでも十分に対応できる拡張性を備えています。

第三の条件

そして最後の決め手となるのが、「コストパフォーマンスに優れていること」です。多くのツールでは初期費用やユーザー課金、アプリ数課金が発生しますが、プリザンターはオープンソースソフトウェア(OSS)として基本機能を無償で提供しており、ライセンス費用がかかりません。既存のインフラ上に構築できるため、初期投資を抑えつつ、現実的なスケールでの運用が可能です。

 

認定トレーニングサービス

こうしたツールの性能を最大限に活かすためには、導入後のスムーズな定着を支援するトレーニングの存在も欠かせません。プリザンターでは、知識とノウハウを効率よく吸収できる公式トレーニングサービスを提供しており、現場を熟知したトレーナーが、受講者のレベルや課題に応じたカリキュラムを設計します。

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オンライン(ZOOM)で開催されるこのトレーニングは、初級から応用まで幅広いレベルに対応し、実務を想定した演習やハンズオン形式で短期間の習得が可能です。受講後のアフターサポートも用意されており、教育コストを抑えつつ、ノウハウの社内定着を着実に進められる体制が整っています。

 

他社事例

ノーコード・ローコードを社内で定着させるには、他社の導入事例から学ぶことも重要です。以下に、実際の企業でプリザンターを活用して成功した3つの事例をご紹介します。

①大手建設業での全社展開

大手建設企業では、グループ会社間の情報共有を目的にプリザンターを採用。クラウド版の「pleasanter.net」で試験運用を開始し、2カ月の開発と少人数でのトライアルを経て、自社サーバー環境にマイグレーションしました。現在では5年以上にわたって継続利用されています。立ち上げ時には、対面開発を中心としたサブスク型支援サービス「まかせ te プリザンター」も併用し、業務設計をスムーズに進行させました。

②自動車メーカーでの社内展開支援

国内大手自動車メーカーでは、DX推進室を中心にプリザンターを社内標準ツールとして導入。推進・開発・基盤の3チーム体制で展開を支援し、テンプレート活用やトレーニング資料の全社展開、サンドボックス環境による試行促進など、多角的な支援体制を構築しました。年間4万時間もの工数削減を実現し、伴走型支援「プリザンター×SES」により、開発だけでなく人材育成や企画支援までカバーしています。

③中小印刷業における工場の業務改善

中小規模の印刷業では、紙の作業指示書で管理していた工程をプリザンターを活用してデジタル化しました。進捗確認が迅速に行えるようになり、月あたり80時間、年間で960時間の業務コストを削減しました。すべてを一気にデジタル化するのではなく、紙を残しつつ最小限の情報をプリザンターに取り込む「ハイブリッド構成」とすることで、現場の混乱を防ぎながら段階的な改善に成功した事例です。

まとめ

ノーコード・ローコードツールの導入には、「誰でも簡単に使える」ことを理由に導入するのではなく、自社に最適なツールかどうかをしっかりと見極めたうえで、導入・定着・展開までを一貫して支える体制と教育環境を整えることが求められます。確かな技術習得と教育への投資、この二つが両立したとき、ノーコード・ローコードツールは単なる道具を超え、組織の成長を支える実践的な基盤となるでしょう